ミステリーじゃない

TOGIO。
2010年このミステリーがすごい!大賞の受賞作品。

トギオ

トギオ


帯のコピーが

ブレードランナー』の独創的近未来、『AKIRA』の疾走感、『時計仕掛けのオレンジ』の暴力。
21世紀不良少年はもうひとつのTOKIOを漂流する。

ってありまして。
これだけ好きな作品を並べられたら、だまされたと思って買ってみない訳には行かないって。
架空の未来。頽廃した日本らしき田舎からストーリーは始まる。
主人公の少年が、口減らしのために捨てられた同級生の弟を拾ったことから、運命が転がり始める。
常に不遇な状況に身を落とされ、拾って弟とした「白」を守りつつも、夢を見ることもかなわず、状況と偶然に流され、立ち向かっていく。
ブレードランナーか?AKIRAか?と聞かれたら、「うーん。違うんじゃね?」って感じはする。
でも「時計仕掛けのオレンジ」か?と聞かれたら、「まぁそうじゃね?」って感じ。
閉塞感と理不尽な暴力に満ちて鬱屈する少年の姿は、村上龍のコインロッカーベイビーズに似てると思った。*1

新装版 コインロッカー・ベイビーズ (講談社文庫)

新装版 コインロッカー・ベイビーズ (講談社文庫)


田舎を飛び出し、港町で職を得て罪を犯し、東暁にたどり着きまた手を染める。
その過程が、完全に成り行きと理不尽な暴力が引き起こすのは、分けわかんなくなるし。
主人公に関係をする人たちの、脈絡のなさと、行きがかりっぷりは、あれ?と思うことも少なくない。
というか、おいおいって突っ込み満載。
巻末に掲載されたこのミスの選評でも、「話作りが荒い」とか「よくわからない」とか、言われてるし。
その上、主人公はあっさり見事にちんけに死んじゃうし。
でも、投げ出さないで最後まで読ませるだけだけの牽引力はあったと思う。
大賞応募の枚数制限がなくて、この3倍くらいのボリュームがあれば、もっと読み応えがあったんじゃないかな、もっとわかりやすく共感できるんじゃないかなと、ワタシは思った。
SFらしいところ言えば、作中世界で通常利用されている携帯端末「オリガミ」。薄くてくしゃくしゃに出来て、個人を認証する。
情報洋というデジタル世界と繋がり、電子マネーの決済・情報収集・個人間のコミュニケーションにと利用されている。
残念ながら、「オリガミ」という紙らしいところは紙飛行機に形を変え空を飛ぶことくらいしかないけど、ドメスティックな作中空気の中で、唯一SFらしいと言えないこともなかった。
さらに難をいうと、ハードカバーのくせに、カバーの至る所に「このミステリーがすごい!」の広告がありまくりなこと。
見返しの部分や、奥付前の作品募集。*2
作者のあとがきや、推薦文じゃなくて、このミス!選者の選評なのにも…?
本の推薦のためなのか、このミス!の宣伝のためなのかわかんない。
ハードカバーにしては安めの1400円で、手に届きやすくするためなのかしら?
ちょっと、残念。

*1:コインロッカーベイビーズを読んだのが、もうずっと前のことなので、うろ覚えなんだけど。

*2:文庫や新書ならまだわかるけどね…。